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県境 第5部町と村 芸備線
縦断動脈も赤字に 観光ルート整備待つ

中国山地を縦断する唯一の交通機関として、芸備線が全線開通したのは昭和11年。山々にこだまする汽笛の声とともに、県境付近の交通地図は大きく塗り替えられた。それから30年、沿線の開発に力を尽くしてきたが、今では営業の不振に悩む赤字路線。"県境の足"は一つの転換期を迎えようとしている、
起点の新見駅を発車すると約50分で県境に達する。東城駅から東城川に沿って北上し、西城へ抜けると今度は西へ。庄原・三次と山あいを縫いながら走り、広島まで全線165.5キロ。1日に旅客列車・気動車・貨物列車が10本ずつ、合計30本(15往復)が行き来する。
芸備線の前身は広島に本社を置いていた芸備鉄道。中国山地の農産物を効果的に移動させるねらいで敷設され、大正12年の末、まず広島-庄原間が開通した。昭和8年6月、国鉄が三次-庄原間を買収したあと延長工事を進め、同11年11月、備中神代(こうじろ)まで開通。翌年、広島-三次間も買収して全線が国鉄の路線となるとともに、すでに開通していた伯備線・姫新線と新見で結ぶ動脈ができあがった。
当時、東城町側から岡山方面へ出かける足といえば高瀬舟とバス。高梁へ結ぶ高瀬舟は、鉄の搬出路として古くから開けた吹屋往来か川之瀬往来を渡し場までかなり歩く不便がはあったが、盛んに利用されていた。一方、バスが開通したのは大正9年10月。東城自動車会社が東城-新見間に1日に1往復した。
鉄道の開通は人の交流はもとより、商品の流通をスムーズにし、新見がまずクローズアップされた。それまで高瀬舟のルートで高梁から運んでいた塩・たばこ・麻など日用品の仕入れ先が新見に傾き始めた。だが旧制中学校だけはその後もしばらく高瀬舟を利用して高梁へ通った。
この芸備線は赤字にあえぎ、経営能率とサービスの向上を図ろうと39年4月、東城駅構内に設置したのが岡鉄局の芸備線管理長室(管内坂根-塩町間)。線区の経営と管理状況に鋭い目を光らせている。
現在、営業係数は300を越え、年々ひどくなる傾向だという。第一の原因は定期外の旅客が減少していること。利用者の総数は着実に伸びているものの、定期客が大幅に増加しているために減収になっている実情。第二は沿線の林業が往年ほど振るわず、貨物量が伸び悩んでいること。
この管理長室管内の40年度の利用状況をみると、乗車人員は253万9,000人で1日平均7,000人。うち定期客は175万人と69%も占め、定期外の乗客は78万9,000人。32年度は乗客222万人のうち、定期客は61%の135万人だった。8年の間に総数は14%増加したのに定期外の乗客が81,000人も減った勘定になる。一方、貨物の輸送量は37万トン(うち東城駅17万トン)で、32年度に比べて6%しか伸びていない。
こうした不振を経営の合理化で穴埋めしようと40年4月、新見から3つ目の市岡駅を民間委託駅に格下げし、1人いた駅員の配属を廃止した。年間の給与約28万円が浮くことになったが、このような方法は根本的な解決にはならない。「乗客を集め、貨物を伸ばし増収を図る積極策が必要だ」と原田管理長は強調する。それだけに"観光の町""石灰石の町"東城町に寄せる期待は大きい。
東城町は北に道後山・南に帝釈峡をかかえる絶好の観光地だが、道路網が悪く、訪れる人たちの不満を買っている。駅から帝釈へ行くにしてもかなり不便だ。そのうえ温泉が出ないことが致命傷となって、泊まり客を呼び込めない。
37年3月から運転を始めた急行「たいしゃく」は、シーズン中2人以上の場合は10%割り引くサービスと相まって好評。夏から秋にかけて連日満員になるが、道後山と帝釈峡を結ぶ観光ルートを整備すれば、もっと客を誘致できるはずだ。町と国鉄当局が真剣に検討すべき課題であろう。
一方、石灰石を原料とする炭酸カルシウムの生産は年間14万トン。今後も一層の開発が進みそうで、見通しは明るい。このほか広島行きビジネス急行の運転も考慮中という。
午後3時54分、東城駅に下り列車が到着した。続いて1分後には上り。かばんをかかえた高校生・中学生がホームに走り込む。東城高校は全生徒のうち1割が県境を越えて通ってくる。舟に乗って高梁の中学へ通っていた昔とは逆の風景だ。
入れ代わりに大きな買い物かごとふろしき包みをぶら下げた子供連れの婦人が降りてきた。「月に一度は新見へ買い物に行くことにしています。安いし、子供も汽車に乗れるというてよろこびますけえな」-。大口の買い物はやはり新見。
東城から広島へは5時間。新見なら50分で、乗り換えれば高梁まで1時間40分、岡山でも3時間。東城-福山間のバス開通などで福山への依存度も強くなったが、芸備線のあるかぎり岡山側との密接な交流は今後も続きそうだ。

中国新聞1966年(昭和41年)12月9日付

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