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きつねのおくりもの

むかし、高尾の村では多くの牛が飼われていました。この牛たちを村の人々は、春暖くなると部落の牧場へ放してやり、秋のとり入れが終わる頃連れて帰り冬を過ごさせるのです。
ある年の秋も深く、山々が色づき初めた頃、人々は牧場へめいめい自分の牛を捜しに出かけました。
「おーい迎えに来たでぇ、いのー(帰ろう)でぇ」
口々に自分の牛を求めて山から谷へ、それぞれに愛牛を見つけては、「大きゅうなったのー」と背中や頭をなでながら連れて帰ります。
ところがその中で、あるおじいさんの牛は、いくら「いのうで、帰ろうで」と押しても引いても動こうともしません。とうとうあきらめて「また明日くるけえの」といって皆は山を降りました。
帰ってそのおじいさんに話すと、おじいさんは「へえじゃ、明日わしが行ってつれて帰らあ」。家族は「みんなにも行ってもろうた方がよかろうて」と心配しましたが、「いんや、わし一人でええ、いけにゃ又呼びにもどるけえ」と朝早く出かけていきました。
その日も暖かい日和で気持ちのよい天気です。山へ入ってから、おじいさんは「おーい、こんどはわしが迎えに来たでぇ、みんな連れがいんだがの、早ういのーでぇ」と大声で叫びながら山から谷を歩きます。
しばらく捜して歩き、やっとおじいさんの牛がこっちを見つかりました。「おー、ここにおったんか大きゅうなったの」と声をかけて近づくと、「モー」と一声鳴いてスタスタ向こうへ歩き出します。「これこれ、そっちじゃないこっちじゃがの、寒うなるし、食うものもなくなるし、うちへいのうでぇ」やさしく後を追いながら声をかけましたが知らん顔、藪の中へ入ってしまいました。
おじいさんは懸命に追いかけて、牛が入った藪の中へ行こうとすると、あら不思議、そこには茶屋が出来ています。「ありゃりゃ?」おじいさんはびっくりして目をパチクリ、すると中から、可愛い娘さんが「いらっしゃいませ」。ぴょこんとおじぎをしながら「どうぞお茶を一杯いかがですか」と熱いお茶と饅頭を持ってきてくれました。
おじいさんは牛を捜して歩き回ったので、喉がカラカラです。「ありがたい、それじゃあ一杯いただこうか」とフーフー吹きながらお茶をいただきました。
それにしても牛はどこへ行ったんじゃろう、休みながら考えました。「御馳走さん」湯呑みを置こうとして奥を見たらまたビックリ、さっきまで茶屋だったのに今度は飲み屋に変っていたのです。
「あれれ」おじいさんは目を丸くして中を覗くと、奥にはきれいな女の人が三人います。さっきの娘もみえます。そして男も二人いました。
「あんたらどこのお人じゃ、こんな所に飲み屋なんぞ無かったのに、どっから来んさったのか?」と聞きました。「わしらは広島から来ましたんじゃよ、どうぞひいきにして下さいな」、きれいな女将さん風の人が言いました。他の娘達もうなずいてにっこり笑いました。「どうぞお近づきに一杯あがって下さいな」。女将さんがさし出す盃を、恐るおそる受取るとそっと飲み干します。しかしもともとお酒が大好きなおじいさん。「どうぞ、どうぞ」とすすめられるままに盃を重ね、いつしか帰るのも忘れるほど御気嫌になってしまいました。今まで食べたこともないような御馳走も出ましたし、お酒もだいぶ飲みました。
お腹がいっぱいになった頃、おじいさんは家の事を思い出し「そうじゃ、早よう帰らにゃみんなが心配しとろうて」と立ち上りかけました。「ねえ、おじいさん日も暮れかかっているし、お酒も召し上っていて足元が危いですから、今夜は泊ってゆきなさい」と何度も何度もすすめられたのですが「いや、帰らにゃ皆が心配しとるけぇ」とふらふらしながら歩き出します。
「そうですか、それじゃこの娘に送らせましょう。あなたちゃんと送り届けてあげなさい」「はい」
可愛い娘はうれしそうに返事をしました。「すまんのお」おじいさんはていねいに何度も何度もお礼を言って、飲み屋をあとにしました。
「おじいさん、そっちは危いよ。ここを歩きなさい」鼻歌をうたいながらよろよろと歩くおじいさんを、娘は後になり先になり、手を引いてあげたり親切につれて帰ります。
道よりはずれて歩くので、おじいさんの着物は少し破けますし、手足は時々とげで傷つきます。「おかしいのう」と、娘を見ると娘の姿はなく、小さな狐がちょこちょこついて歩いています。手を引いてくれていたのは尻尾をつかまえていたのです。
「あれれ」おじいさんは何が何だかさっぱり判らなくなり、酔っている目をキョトンとさせて「何じゃお前は、人間じゃと思ったら狐じゃないか、どうしたんかのお」と聞けば子狐は、「はい、おじいさんは優しい人じゃけえ、少し喜ばせてあげようと思ってー」と答えます。「そうか、そりゃうれしい」。
おじいさんは昔から聞いていた事が本当だなと思いました。それは、狐は人間の通る道は絶対通らないということです。
やっと村へ着きました。「やれやれありがとう、もういいから山へお帰り」お礼をいうおじいさんに、子狐は「ちょっと待って、いいものあげる」と言って、ちょろっと木の葉に姿を消すと、手に持ちきれんばかりのお金を持って出て来ました。おじいさんは目を白黒させて「みんなや、すまんのお」といって懐にいっぱい袂にいっぱい入れてもらって大喜び、「さいなら、さいなら」と、何度も手を振って別れました。
さて、家では家族が心配して、村の人達とおじいさんを探しに行こうと相談していました。
何やら、ごちゃごちゃ言いながら、よたよたにやにや帰って来るおじいさんを見て安心してかけ寄ってゆくと、「やあやあ、すまんこっちゃ、へえでもいいものやるけえ、みんなにも分けてやりんさい」と懐と袂からお金をじゃらじゃら出しました。でも所詮それは狐がくれたもの、おじいさんはお金じゃと思っても、みんなの目には木の葉にしか見えません。目の前に山と積まれた葉っぱを見て、「じいさんは狐にだまされたんじゃ、でも無事に帰って来てよかった、よかった」と喜び合いました。
おじいさんは、それっきり倒れて寝てしまい、あくる日は腹の調子がおかしくなり、三日三晩、床の中。
でも毎年秋になると思い出します。
「あの狐たち、どうしとるじゃろうかの・・・・・・・」
狐も山で思い出します。
「おじいさん喜ばしてあげてよかったな、元気じゃろうかな…・・」と。
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